弔辞(2000)
高橋悠治


           如月小春さん
    楫屋さんとの結婚の保証人をたのまれたのは
     そんなに遠いむかしではなかった
  こんどはあなたとの別れのことばですか
   これはどうしたことでしょう
死ぬとはどういうことでしょう
  生まれてきて 死ぬまで生きることに
        どんな意味があるのでしょう

      千本桜のせまい室内
    黄金虫システム を見にいって
     はじめて会ったときから間をおかずに
    高い塔の歌 を
   如月小春と水牛楽団 のコラボレーションとして
        つくったとき それから
            吉原すみれさんも加わって
          北海道の十勝平野 襟裳岬
楫屋さんもいっしょに写真をとりましたね
    山羊牧場 札幌をめざしたバスの旅

都市 ソレハユルギナキ全体
絶対的なヒロガリヲモチ
把握をユルサズ イキヅキ ツカレ ケオトシ
ソコデハ スベテガオキザリニサレテ
カカワルコトナシニブヨブヨト 共存スルノミ

個ハ 辺境ニアリ タダ 辺境ニアリ
タノシミハ アマリニオサナクテ
ザワメキノミガ タユタイツヅケル

コンナヨルニ タダシイナンテコトガ ナンニナルノサ

    夕闇迫る都市という辺境 にまよい
イマ ソコデ アレヲ見タ ドウシヨウ
       ということばも 声にならず
           もがきつづける身体を
  如月さんは みつめていましたね
            それは あの時代のこどもの
         それまでになかった感覚だった
    そして表現は いまもなお そこに
          くりかえし たちかえる のです

ボクハソンケイスル
雨ノ日モ 風ノ日モ
ヂットタチツヅケル
自動販売機ヲ ソンケイスル

キミハ ミタコトガアルカ
巨大ナ空白ガ 杉並区ヲツツム ヨルニモ
凛々トシテ屹立スル 自動販売機ノ意志ヲ
カケメグル ニクロム線ノ欲望ヲ
ボクハ ソンナ自動販売機ヲ ソンケイスル

    高い塔の上からみわたしても 世紀末都市
           このバベルの
   日常のかぎりないひろがり
        このような場所で生きつづけるための
      バランス感覚としてのMORALは
    どこにあるのか
高い塔の歌から十七年 いまがまさに世紀末
            如月さんは
    あのときからみつめていた これを
         いまその終わりをまたずに
       逝ってしまいましたね

終極トシテノ白
砂漠ノ白 灰ノ白 核爆弾炸裂ノ瞬間ノ白ニ
溶ケコミソウニナリナガラ
溶ケコミキレナイデイル人間ノ劇

ワ ワタ ワワワタ ワタ ワタシ ワワ ワタシ
ワタシガ ガガ ガガガ ガコ ワタシガコ ガココ
ココ ココニ ココニイ イ イル
コ ココニ ココニイル
ガ ガコ タシガコ ワ ワタシ ガココ ココニ
イル イルコ イルコト ヲ ヲシ ヲシラ ヲシラセ
セ セセ セセタ ラ ラセタ タイ タ タイ

   わたしがここにいることをしらせたい
     このほとんど伝達不可能な呼びかけ
 如月さん
           この呼びかけにこたえる身体は
            なくなっても
         なにかが 意味を越えて
      もどかしく
まだ運動をくりかえしている

         では とりあえずの別れです
 つくられたものはとどまらず
            顕れては消えるさだめ
   生まれ滅びる
  そのやすらいこそがしあわせ

        おやすみなさい

         高橋悠治


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